− 法多山伝承奇譚 −
御本尊に伝わる
60年前の不思議な話
法多山のご本尊は秘仏である。
法多山のご本尊は御開帳と呼ばれる60年に一度のタイミングで公開される。60年に一度とは、平均年齢が現在よりも短かった日本では一生に一度に等しい。
60年に一度だけ開かれる仏様。
1300年の歴史を持つ法多山尊永寺のご本尊は、歴史の中で脈々と受け継がれてきた。
本尊である観音様は、お手入れや年に一度行われる大掃除などでも絶対に姿を見られないように、厨子と呼ばれる箱に入れられ、白の絹布でぐるぐる巻きにしてある。
1983年に古い本堂から現在の本堂に移す際に厨子から出した時も、真っ白い絹布に包まれた状態であり、姿を見ることはできなかったという。
2024年現在の住職は50代であり、当然、白の絹布に巻かれた中の姿は見たこともない。
この本尊は2028年に開帳される。
60年前、先代の住職の時のご開帳で、不思議なことが起こったと伝わる。
いわゆる「昭和の御開帳」である。
お厨子を開けてみたのだが、なんと、その中には二体の仏像が入っていたというのだ。
どちらがご本尊様なのだろう…。
一つは白い布で巻かれた仏像。
一つは板彫りで土がついている仏像。
どちらがご本尊なのかわからず、先の御開帳を知るという当時90歳を超える三ヶ日の摩訶耶寺というお寺の老僧に尋ねると「ご本尊は白い絹で巻かれていた」と教えてくれた。
ではもう一体の仏様は何なのだろうか?
法多山に伝わるご本尊の観音様にはふたつの不思議な伝説がある。
一つは開祖である行基様が神亀2年に聖武天皇の命で寺を作った際に、観音様を刻んだ行基作の仏像が本尊であるという伝説。
もう一つは、かつて今よりもっと海と近かった時代、袋井市浅羽という土地にいわくがある伝説である。
浅羽の芝村という土地の、川とも田んぼとも言われている場所から出てきた仏様があったという。古くから仏さまが海や川から出てくる伝承は多く、水中湧出説と言う。漁師の網にかかったり、川から浮かんでくるなど、水からあがった仏様は縁起が良いとされ全国に多くの伝承が残る。流れてくるものは縁起が良い。ましてや仏像などありがたい。
土のついた仏像はご本尊とともに大切にまつられた、浅羽から湧出した仏像なのかもしれぬ。
いつ本尊が収められた厨子の中に、この仏像が収められ、厨子の中の仏像が2つになったのか?誰も知らない。わからない。
60年に一度だけ開かれる、ほんのわずかな時間しかこの仏像は日の目を見ない。
謎は謎としてまた60年先に繋がれる。
1300年の歴史とともに。
また60年先の御開帳に向けて、法多山尊永寺の厨子は、二体の仏像を入れて閉じられることだろう。
1300年の年月の中で生まれた謎は、いつか解ける日はくるのか?
願わくば、この伝承奇譚の記載が60年、120年のちの人々が謎を解く鍵の一つになる事を祈るのみである。
このページは、法多山の千三百年の歴史に伝わる、いわれや伝え聞く謎と伝承を集めた「法多山 伝承奇譚」のページです。