法多山に春が来て、サクラで賑わう季節を過ぎ、人々の装いも初春から夏支度に変わる頃、法多山の境内は、目の覚めるような美しい新緑に彩られます。
空を泳ぐ鯉のぼりがまた来年ね…と仕舞われ、山々や水の中では小さくも懸命な命が動き出します。
寛永17年(1640)に建立された、国指定重要文化財である法多山の山門をくぐり、左手にこちらも300年を超える市指定文化財である黒門を見ながら歩くと、左に緩やかな坂道があります。
その石畳の坂道をゆっくり上ると、緑の庭園が現れます。苔むした庭園の中ほどに、大人なら跨げるほどの小さな清流が流れています。
ここはホタルのための楽園。1年を通して立ち入り禁止とし、ホタルを保護している日本庭園です。季節や天候により前後しますが、毎年5月の下旬ごろには、美しいゲンジボタルの乱舞が楽しめます。
決して大群生とまでもいきませんし、訪れた日が早かったり、遅かったりした場合は、数匹の場合もあります。しかし、その年の最盛期には、美しい光の乱舞を楽しむことができます。
夏の訪れを告げるホタル。儚くも美しいその光に、昔から人々は様々な想いを持って見つめてきました。
全ての生きとし生ける者のもつ、美しさと儚さを…
瞼の裏にすら残る漆黒の闇を舞うその光と、
逝ってしまった大切な人の想い…。
静かな庭園の中、小さな清流の水の如く緩やかに、
時は流れ、今年も法多山に夏が訪れます。
鑑賞の際は、静かに…。
カメラのフラッシュやライトは禁止です。
美しく舞うホタルとその想いを体感ください。